
Presentation
口笛は何故、遠くまで聞こえるの。あの雲は何故私を待ってるの。
教えて、おじいさん。教えて、おじいさん。
教えて、アルムのもみの木よ。
世界名作劇場の『アルプスの少女ハイジ』で、歌とともにハイジがブランコをこぐ。
美しい山々をバックに明るく歌って、大きく大きく、前後にブランコを揺り動かす。
ロープの長さ、空に体が振られた時の最大角度、それに乗るハイジの体重など、その時のアニメの映像を大真面目に分析すると、ハイジの乗るあのブランコの最高速度は、その時、時速六十キロを超えているのだという。振り落とされれば、六階建ての建物から飛び降りた時と同じ衝撃に見舞われる。
危ないよ、ハイジ。
どうしてそんなに笑顔で歌っていられるの?教えて、おじいさん。そんな、ちょっと意地が悪い話がある。
では、倉崎みのり(小学五年生、十一歳)を襲った衝撃は、時速何キロの、どの程度のものだったのだろう。
すぐ横でブランコに乗っていた彼女のクラスメートは、揺れるブランコをぼんやり眺めていた。
何度も何度も立ったり座ったりを繰り返しながらそれをこぐみのりの足、上がっていくスピード。
高く舞い上がるブランコと鎖。
そのうち、速度を上げることにも飽きて、やがてみのりはこぐのをやめるはずだ。段々とスピードも緩まり、座って、足を地面につける。そうやってブレーキをかける。
予想していたのに、そうはならなかった。
ますます速度を上げる。
次の瞬間だった。ブランコが前に振れた一瞬に、ふわっと座席から彼女の体が浮かび上がった。
それに気付いたのは、自分の横に、誰の姿も乗せない空っぽなブランコが急に勢いを失って戻ってきたからだった。と同時に、安全用に設けられたブランコの前の柵の向こう、ドサリという落下音を聞く。
「みのりちゃん!」
倒れたみのりは、正面から落ちた。全身を、特に頭を強く打ち、投げ出された右腕が通常はそんなところまで曲がらないという位置まで外側に曲がっていた。反対側の左腕は手首が完全に内側をむいた状態で、ぺったりと地面に甲をつけて折れていた。
擦りむいた足と腕、皮膚から滲む血がじわじわと広がる。うつ伏せなので、表情は見えなかった。頬っぺたに砂が付いている。それをみとめたと同時に、頭の位置から地面に赤黒い染みが広がりだす。
教えて、おじいさん。教えて、おじいさん。
教えて、アルムのもみの木よ。
世界名作劇場の『アルプスの少女ハイジ』で、歌とともにハイジがブランコをこぐ。
美しい山々をバックに明るく歌って、大きく大きく、前後にブランコを揺り動かす。
ロープの長さ、空に体が振られた時の最大角度、それに乗るハイジの体重など、その時のアニメの映像を大真面目に分析すると、ハイジの乗るあのブランコの最高速度は、その時、時速六十キロを超えているのだという。振り落とされれば、六階建ての建物から飛び降りた時と同じ衝撃に見舞われる。
危ないよ、ハイジ。
どうしてそんなに笑顔で歌っていられるの?教えて、おじいさん。そんな、ちょっと意地が悪い話がある。
では、倉崎みのり(小学五年生、十一歳)を襲った衝撃は、時速何キロの、どの程度のものだったのだろう。
すぐ横でブランコに乗っていた彼女のクラスメートは、揺れるブランコをぼんやり眺めていた。
何度も何度も立ったり座ったりを繰り返しながらそれをこぐみのりの足、上がっていくスピード。
高く舞い上がるブランコと鎖。
そのうち、速度を上げることにも飽きて、やがてみのりはこぐのをやめるはずだ。段々とスピードも緩まり、座って、足を地面につける。そうやってブレーキをかける。
予想していたのに、そうはならなかった。
ますます速度を上げる。
次の瞬間だった。ブランコが前に振れた一瞬に、ふわっと座席から彼女の体が浮かび上がった。
それに気付いたのは、自分の横に、誰の姿も乗せない空っぽなブランコが急に勢いを失って戻ってきたからだった。と同時に、安全用に設けられたブランコの前の柵の向こう、ドサリという落下音を聞く。
「みのりちゃん!」
倒れたみのりは、正面から落ちた。全身を、特に頭を強く打ち、投げ出された右腕が通常はそんなところまで曲がらないという位置まで外側に曲がっていた。反対側の左腕は手首が完全に内側をむいた状態で、ぺったりと地面に甲をつけて折れていた。
擦りむいた足と腕、皮膚から滲む血がじわじわと広がる。うつ伏せなので、表情は見えなかった。頬っぺたに砂が付いている。それをみとめたと同時に、頭の位置から地面に赤黒い染みが広がりだす。
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